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深夜1時、酔客に運転を妨害され110番した話

2026年6月12日 by corineo_wp

タクシードライバーとして働いていると、さまざまなお客様と出会います。今回は、私が新人時代に経験した、今でも忘れられない酔客との出来事です。

タクシードライバーになりたての頃の話です。

タクシードライバーになってから、数え切れないほどのお客様を乗せてきました。

その中で、一番危なかった乗客は誰かと聞かれたら、私は迷わずこの人を思い出します。


原宿で乗せた年配の男性

深夜の原宿で手を挙げたのは、年配の男性でした。

70歳くらいに見えたでしょうか。身なりはきちんとしていて、一見すると品のある紳士に見えました。ところがタクシーに乗ろうとした瞬間、足がもつれて転倒しました。

今なら、泥酔しているお客様はお断りすることもあります。しかし当時の私は新人でした。転んだ姿を見て、「かわいそうだから乗せてあげよう」と思ったのです。

行き先を聞き、車を走らせました。

当時乗っていたのは黄色いクラウン。まだコロナ前だったので、今のような防犯ボードはありません。運転席と後部座席の間には、何の仕切りもありませんでした。


後部座席から運転席へ

しばらく走ったところで、その男性が突然、私の左腕をつかんできました。

何を言っているのかよく分かりません。酔っているせいか、言葉もはっきりしません。

次の瞬間、後部座席から身を乗り出し、助手席側を越えて、私の前に滑り込んできたのです。

運転席と後部座席の境界が、一瞬で消えました。

70歳くらいに見える方でしたが、力が信じられないほど強かった。腕を振り払おうとしても、びくともしません。ハンドルを握る手が、じわじわと自由を失っていく感覚がありました。

このままでは、まともに運転ができない。事故になる。

恐怖と怒りが同時に来ました。私は車を道路脇に停めました。淡島通りを走り、松見坂を越えたあたりだったと思います。時間は深夜1時過ぎ。あたりに人影はありませんでした。


深夜1時の110番通報

私は車を降りて、110番通報しました。

逃げられても困る。車を乗り逃げされても困る。そう考えてエンジンを止め、キーを抜いて、外からドアロックをしました。今思えば、中にいる人は普通にドアを開けられるのですが、その時は必死でした。

警察が来るまで、外から様子を見ることにしました。

体感で10分ほどだったと思います。その間、車から出てきた男性は、タクシーの後ろで立ち小便をしていました。あれだけ私を恐怖させた人物が、一人でふらふらしている。怒りと、どこか虚脱したような気持ちが混ざりました。


自転車で来た警察官

やがて警察官が二人、自転車でやって来ました。

私は事情を説明しました。後部座席から運転席まで乗り出してきたこと。腕をつかまれて運転ができなくなったこと。危険を感じて停車し、110番したこと。

警察官は私の話を聞いた後、「料金はもらいましたか?」と聞きました。

「まだです」と答えると、警察官は男性に「料金を払ってください」と言いました。

男性は素直に財布を取り出し、現金で支払いました。財布の中には、それなりにお札が入っていました。原宿で乗せたことを考えると、いつも通っている飲み屋からの帰りだったのかもしれません。料金トラブルにはなりませんでした。

警察官は私に「もう行っていいですよ」と言いました。私はほっとしました。

しかし、安堵したのも束の間でした。

男性は近くにあった他人の自転車を持ち出して帰ろうとしたのです。警察官が「コラー」と声を上げて止めました。当然です。あれだけ酔っている状態で、しかも他人の自転車で帰らせるわけにはいきません。

男性は警察官と言い争いになりました。

「このやろう!」

そんな声が聞こえた気がします。

次の瞬間、男性は道路にねじ伏せられていました。

私はその様子を見届けて、その場を後にしました。

おそらく本人は、翌朝には何も覚えていなかったのではないかと思います。酔客トラブルには、そういうケースも少なくありません。


同情と安全は別の問題

ニュースでは時々、酔客とタクシードライバーのトラブルを見かけます。以前は他人事だと思っていました。しかしこの出来事を経験してからは、見方が変わりました。

運転中に後部座席から乗り出してくる。腕をつかまれる。まともに運転できなくなる。考えてみれば、一歩間違えば大事故だったかもしれない状況でした。

新人だった私は、転倒した高齢の男性を見て同情しました。その気持ちは間違っていなかったと、今も思っています。

ただ、タクシードライバーにとって、同情と安全は別の問題です。

あの夜の出来事は、そのことを私に教えてくれた、忘れられない経験でした。

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